選手の意思決定について
意思決定プロセス
試合では、選手がプレーを行う。つまり、試合に直接的に関与できるのは、選手のみである。スタッフ、サポーターは間接的な関与のみである。
選手がプレーするとは、ピッチ上で認知し、判断し、意思決定を行い、行動をすることである。
認知とは、選手が身体的器官(視覚、聴覚、触覚など)を使いピッチ上の情報を得ることである。
判断とは、選手が持っている概念を認知された情報に当てはめ、状況を解釈することである。
意思決定とは、判断をした状況に合わせ、選手の持っている選択肢(個人原則)の中から一つ選択することである。
行動とは選択したものを実際に現実世界で表現すること。表現する精度に関しては選手の能力(身体的、技術的)に大きく影響される。
意思決定プロセスは意識的なものと無意識的ものが存在し、無意識的な回路のほうが高速である。
試合の中で意思決定すること
試合においては意思決定を行う時間は限定される。そのため、限定された状況で素早く、よりよい意思決定を行う必要がある。そのためには選手の情報、概念、選択肢のいずれにも思考や身体の優先順位(バイアス)を利用すること、条件反射的に単一の行動をすることで高速化する。
思考のバイアスとは、価値の低いものと高いものを設定することである。価値の高低については選手の経験的(環境的)なもの、チームとして設定しているもの(戦術)、ゲームのルールが影響を与える。
身体的なバイアスとは、情動的に反応するということ。情動的に反応することとは、特定の状況に対して、瞬時に選択肢が浮かんでくること。具体的には、物を投げられた時には、勝手に避けるか受け取るか選択をしてしまうこと。俗に本能的と呼ばれる行動がそうである。
情動的にネガティブな状態(緊張状態)であると選択肢は限定され身体は硬直する、ポジティブな状態(リラックス状態)だと選択肢は増え無駄な力は抜ける。怒られているときには怒られたことしか考えられないし、風呂に入っているといいアイデアが浮かんでくるのである。
無駄な選択をしている時間的余裕がない大事な局面で、緊張感を持てという言葉は情動的に正しいし、情動バイアスの効果的な利用といえる。中西哲生氏が提唱している<フラットな感情でプレーする>とは、情動的なバイアスを可能な限り取り除き過剰な選択肢の制限、緊張による体の強張りを防ぐということだと思う。
条件反射で反応するとは、特定の状況に対して一つの行動を結び付け、状況が発生したら自動で行動が発生するようにすることである。
選手との関わり方について
選手を過度な緊張状態にさらすことは選択肢を狭め、効果的な選択を妨げることになる。サポーターが圧力をかけることも、監督が過剰に怒ることに意味はないのである。ケパやカリウスなどはこの負のスパイラルに陥ってしまってると感じる。現代においてはSNSの発展による、コミュニケーションの簡易化が進み、選手が精神的にリラックスできる環境が少なくなっていると感じる。
また身体接触が避けられないスポーツである以上選手は怪我に悩まされる。情動とは身体情報の無意識的発現なので、怪我による痛み、不快感によっても緊張状態に晒される。
選手はこのような緊張状態になりやすい環境を過ごしており、過度の緊張状態が持続するといたる先は鬱病であり、エンケの悲劇を忘れてはならない。イニエスタやバルデスなども鬱を経験している。
選手に対して、クラブという共同体(サポーター、スタッフ、選手)はできる限り、良い環境を整備し選手が過度の緊張状態に陥らないようにするべきだと思う。
練習においては、コーチは選手の認知、判断、意思決定、行動の精度や種類を増やし、より高速で可能になるようにするのを助けるのが仕事になる。
読者の方お読みいただきありがとうございました。
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